書籍詳細

BCG流病院経営戦略

DPC時代の医療機関経営

著=植草徹也(ボストン コンサルティング グループ パートナー&マネージング・ディレクター)
堤 裕次郎(同 パートナー&マネージング・ディレクター)
北沢真紀夫(同 パートナー&マネージング・ディレクター)
塚原月子(同 プリンシパル)

A5判

190頁

ISBN978-4-86034-201-2

2012年06月発行

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書評

 

世界的経営コンサルティングファーム ボストンコンサルティンググループ(BCG)による、病院経営戦略論

 

日本赤十字社の協力の下、医療現場の経営改善に向けて実証的研究を行った著者らが、病院経営に関わる医師や事務方の方々に医療の質と生産性を向上させる病院経営戦略について解説。

DPC(診断群分類包括評価)に則った実務的内容で、今日からでも始められる具体的な経営手法が満載。
 

医療関係者のみならず、病院とビジネスで関わるあらゆる職種、経営者、ビジネスマンにとっても役立つ経営の戦略的示唆に富む内容。
 

世界最速で高齢化が進む日本。国民医療費がGDP10%を突破する日が目前に迫っているにもかかわらず、わが国医療制度の抜本改革に対する取り組みは十分とは言えない。

経営改革を実現する5つの提言を柱とし、日本赤十字社の協力の下に行った実証的研究を基に、医療の質と生産性を向上させる経営戦略の考え方と手法について解説する。 

 

【推薦のことば】

 

「医療機関経営の入門書として最適!BCGらしい現場感あふれる
分析アプローチで、明日から使える手引書になっている」

 

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 医療経済学分野 教授 川渕孝一

 

 

【目次】
Chapter 1 なぜ今,病院に経営戦略が必要なのか?
Chapter 2 病院経営改善の本質
Chapter 3 本質的病院改革の阻害要因
Chapter 4 病院改革に向けた提言1:クリニカルパスで診断・治療プロセスを標準化せよ!
Chapter 5 病院改革に向けた提言2:複数診療科・病棟にまたがった人・病床・設備の全体最適利用の仕組みをつくれ!
Chapter 6 病院改革に向けた提言3:地域内医療機関の連携,役割分担を明確にせよ!
Chapter 7 病院改革に向けた提言4:「総合」病院から「尖り」のある病院へ進化を遂げよ!
Chapter 8 病院改革に向けた提言5:「在院日数」と「新入院患者数」を必ず含むKPIを設定し,モニターせよ!
Chapter 9 医薬品・医療機器産業に向けた提言
Chapter 10 わが国医療機関のグローバルな競争力向上に向けて
Appendix

 


 

【はじめに】

 

 サンフランシスコ郊外で,グローバルに活躍しているバイオベンチャーとのミーティングを,いましがた終えてきた。フライトの待ち時間に空港のラウンジで,この文章を書いている。米国,欧州,アジアの各地域から,ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)のパートナーが集まって,バイオベンチャーの経営陣と,ある新薬のグローバル上市戦略を議論してきたばかりだ。
ミーティングの途中から,ある種の違和感が頭から離れない。欧州のパートナーは,医療経済の観点から新薬が保険償還されないリスクを危惧して,低価格戦略を取る可能性について議論していた。アジアをはじめ,新興国をカバーしているパートナーたちは,対象疾患の重要性から新興国の国内企業に強制的に新薬を導出させられるリスクについて語っている。先進国であれ,新興国であれ,重要疾患の治療に必要な手段を,国家財政と国民にとってリーズナブルな価格で手に入れる方法を必死になって考えているのが諸外国の現状だ。

 

 一方で,わが国の医療制度はどうだろうか。2012 年4 月に診療報酬改定が行われたばかりだが,全体では横ばい,医療機関への報酬である本体部分はプラス1.38%,薬価はマイナス1.38%の改定であった。全体で横ばいなら,財政インパクトもなさそうに聞こえるが,そうではない。世界最速で高齢化が進むわが国では,たとえ診療報酬の単価が横ばいでも,65 歳以上の医療費が若い世代の4 ~ 5 倍もかかることから,医療費は加速度的に増えていく。国民医療費は,現状こそOECD 調べでGDP の8.5%(2008 年)と先進国のなかでは比較的低いほうだが,10%突破は必至で,そう遠くない将来にヨーロッパ先進国並みになるだろう。このような切迫した状況にあるわりには,わが国医療制度の抜本改革に対する取り組みは,諸外国のそれと比べると緩やかに思える。
しかし,わが国の規制当局も決して手をこまねいているわけではない。2014年度には,欧州諸国にならって,診療報酬への医療経済的評価の導入が検討されている。まずは薬価への適用が検討されており,複数のプロセスが含まれる診療行為への適用は,当面は見送られる見込みだ。ただし,DPC(診断群分類包括評価)は,本質的には複数のプロセスで成り立つ診療行為を,実際のプロセスがどうであれ一日当たりの支払いが定額になるように設定した仕組みである。事実上の診療行為への医療経済評価の適応と考えても差し支えないのではないか。
現状の医療費の増加ペースを考えれば,検討中の消費税の10%だけでは,早晩財政がもたなくなることも事実だろう。一方で,消費税を例えば30%にするなどというのは諸外国でも例がなく,現実感がない。いつかは,診療行為本体のムダ,ムラに本格的なメスが入る日がくるだろう。

 

 わが国の医療機関は,そうした日に対する備えは十分だろうか。
かねてからこのような問題意識を抱えていたところ,東京医科歯科大学の川渕教授のご指導の下,日本赤十字社の赤十字病院にご協力いただいて,経営改善に向けた実証的研究を行う機会を得た。そこで,BCG の社会貢献活動の一環として,無償で経営コンサルティングを実施させていただいた。
そのなかで,わが国の病院には民間企業以上の優秀な経営を行っているところもあれば,そうでもないところもあり,その差が非常に激しいことがわかってきた。考えてみれば当たり前の話で,わが国では,病院の経営者である院長は医師でなければならず,医療のプロではあっても,必ずしも経営のプロではない。したがって,経営の良し悪しが,院長をはじめとする経営陣の個人的資質や努力にかかっており,必要最低限の経営知識を学ぶ機会も保証されているわけではない。

 

 本書は,そうした現状に鑑み,すでに病院経営にかかわっているか,将来かかわる可能性のある医師や事務方の方々を念頭に,病院経営戦略の基本を自習される際の参考にしていただくことを主たる目的にしている。また,第9 章では,病院経営の現状を踏まえて,病院を顧客とする製薬企業や医療機器メーカーへの戦略的示唆を,最終章では政府ないしは地方自治体がとるべき政策への示唆を考察している。病院経営の「現場」を理解することで,より大きな問題意識をもつようになったからである。本書が,医師の方々はもちろんのこと,より広範な読者にとって,わずかなりとも戦略的示唆があるものとなっていれば,著者らにとって望外の幸せである。
 

2012 年4 月 ロサンゼルス国際空港にて
著者代表 植草 徹也