基礎編に続く待望の応用編。栄養管理のポイント・処方設計を病態別に解説。実際の栄養管理の事例も併せて掲載。栄養サポートチーム(NST)活動に必携の参考書。
はじめに
栄養療法は支える医療であり,PEM(Protein Energy Malnutrition)の状態を改善し,正常に近い状態を維持する方法である。
現代は治す医療から支える医療へ転換しており,栄養療法は急性期病院だけでなく,一般療養や介護施設においても重要な役割を担ってきている。
栄養療法は単にPEMやQOLの改善に効果があるばかりでなく,感染予防などのリスクマネジメントや入院期間や費用の軽減などの医療経済学的な効果を持っている。
栄養療法の実際的な知識やノウハウは,日常診療だけでなく,NST(Nutrition Support Team)や緩和医療の活動にも大きく役立つものである。
実際の臨床では,個々の症例によって病態も異なり,同じ症例は一つとしてない。また,環境も刻々と変わっており,一律な栄養管理をするのではなくて,基本的な知識を確認しつつ,病態に対応した栄養管理をすることが必要である。
静脈・経腸栄養による栄養管理の実践編は,基礎編につづくものである。本書はこのような目的から,いろいろな症例を呈示し,その治療過程の中でいかに栄養管理するかを具体的に執筆してもらった。
また,本書は,JSPENの栄養療法のガイドラインに基づいて内容を構成しており,患者さんを中心にしたチーム医療である栄養サポートチーム(NST)活動の一助になれば幸いである。
本書の刊行に当たって症例を呈示し,執筆していただいた各先生方に心から感謝いたします。
2005年1月
医療法人伸裕会渡辺病院 院長
標葉 隆三郎
発刊によせて
今日の医療はチーム医療を積極的に取り入れ,患者中心の医療を実施することが望まれている。その代表的なチーム医療として,栄養サポートチーム(NST)が認められてきている。実際にNSTを稼動していくためには,多くの医学的な知識とさらに輸液と栄養の基礎的な知識を学習する易しい参考書を必要とする。その目的のために企画されたのが『実践 静脈栄養と経腸栄養基礎編』であり,2003年11月に出版された。その間に世の中の動きとして,適切な「栄養療法」を全国の医療機関などに推進・普及されることを目指す「日本栄養療法推進協議会」が設立された。栄養士,看護師,薬剤師の学会員が多い「日本静脈経腸栄養学会」では,以前からコメディカルの人々を対象にした NST専門療法士などの学会認定を行ってきた。しかし,ここにきて,NST認定事業を第三者機関として立ち上げようとする気運が高まってきたことは,医療機関の質の評価,医師をはじめとする医療従事者の知識や技術の習熟度を職種別に評価する栄養サポートチーム専門療法士の認定,さらには診療報酬の問題などに影響が出てくると考えられる。
栄養療法は患者の治療上の質を高めるばかりではなく,医療経済からみてもその効果は大きいことが知られている。薬剤師が今まで服薬管理業務などで得た貴重な臨床経験をNSTの一員として担う役割は大きい。今日,NSTの設置を認める気運が高まる中,ぜひNSTへの参加を積極的に進めるべきである。このような背景から,『実践 静脈栄養と経腸栄養応用編』を企画することになった。執筆者はすでに栄養療法の専門薬剤師として,日本静脈経腸栄養学会から認定されている人々と栄養療法の指導的立場にある医師および栄養士の先生方にお願いした。
本書の目的は,栄養療法の専門薬剤師として基礎的な知識を紹介すること,すでにNSTを取り入れて実施している業務の紹介を通して,これからNST専門薬剤師を目指す方々の参考になることである。
本書の構成は5章からなり,1章,2章はNSTのあり方と基礎的な知識である。3章は医師,栄養士からみた栄養評価と薬剤師による基本的な処方設計,4章は専門医師により病態別栄養管理のポイントについて解説している。5章は病態別の栄養管理の実際を担当NST薬剤師が紹介している。各章とも理解しやすく書かれており,NSTを立ち上げる際のわかりやすい実務書といえる。
多忙な日常業務の中,執筆いただいた先生方に衷心より感謝するとともに,ご指導いただいた標葉 隆三郎病院長に御礼申し上げる。また,本書の出版に当たり,企画の段階より精力的にご協力いただいたエルゼビア・ジャパン株式会社の方々に感謝する。
2005年1月
前北里大学病院 薬剤部長
島田 慈彦
目次
第1章 NSTの役割 15
Ⅰ NSTは何をすべきか 16
1 NSTの始まり 16
2 NSTの展開 16
3 NSTの将来 18
Ⅱ 栄養士・コメディカルに期待するもの 21
第2章 処方設計に必要な水・電解質の基礎知識 23
1 体液の構成 24
2 処方設計の基礎 25
3 アミノ酸と窒素係数の関係 28
第3章 栄養管理の基本 31
Ⅰ 医師からみた栄養評価 32
1 はじめに 32
2 栄養アセスメントとは 32
3 医師として望まれる栄養アセスメントでの役割について 38
Ⅱ 栄養士からみた栄養評価 50
1 栄養スクリーニング 50
2 エネルギーのアセスメント 50
3 必要蛋白質(窒素量)のアセスメント 50
4 身体計測 52
5 食事摂取量のアセスメント 54
6 総合的な栄養アセスメント-栄養療法の意義と必要性の判断 54
7 血液生化学検査(特に血清蛋白質) 54
8 栄養検査を参考にできない場合の指標 57
9 おわりに 57
Ⅲ 輸液療法の基本 59
1 はじめに 59
2 輸液療法の基本 59
3 必要な投与水分量とエネルギー量の計算 60
4 基本処方とは 63
5 基本処方の応用 65
Ⅳ 栄養素の計算方法 66
1 はじめに 66
2 TPN(total parenteral nutrition)処方設計例 66
第4章 病態別栄養管理のポイント 73
Ⅰ 消化器疾患における処方設計 74
1 はじめに 74
2 栄養管理の基本 74
3 栄養管理の実際 76
4 おわりに 80
Ⅱ 肝疾患における処方設計 81
1 栄養管理の基本 81
2 栄養管理の実際 83
3 基本処方例 85
Ⅲ 腎疾患における処方設計 87
1 腎疾患と栄養不良 87
2 腎疾患患者における栄養指標と予後 87
3 腎疾患患者に対する蛋白投与 87
4 腎疾患患者に対する静脈栄養 88
5 栄養投与ルート 88
6 その他の栄養素 89
7 栄養管理の実際 89
8 おわりに 89
Ⅳ 糖尿病における処方設計 91
1 背景(病態生理) 91
2 経腸経静脈栄養法の適応 91
3 経腸経静脈栄養法の内容 91
4 栄養管理の実際 95
Ⅴ 循環器疾患における処方設計 99
1 はじめに 99
2 心臓手術の周術期栄養管理 99
3 急性心不全の治療における栄養管理 101
4 慢性心不全例の栄養管理 101
5 栄養管理の実際 102
6 おわりに 104
Ⅵ 術後の処方設計 105
1 はじめに 105
2 術前栄養管理 105
3 術中から術当日の管理 105
4 利尿期以降 105
5 経腸栄養の有用性 106
6 栄養投与量の設定 106
7 栄養療法の離脱 107
8 おわりに 107
Ⅶ 熱傷の処方設計 111
1 栄養サポートの基本 111
2 栄養サポートの実際 113
3 栄養投与の実際 116
Ⅷ 小児の処方設計 119
1 栄養管理における小児の特殊性 119
2 小児の栄養管理の実際 121
3 栄養管理の実際 126
第5章 栄養管理の実際 129
Ⅰ 消化器疾患 130
1 消化器癌術後高齢患者に対する栄養管理 130
2 慢性膵炎患者に対する栄養管理 134
Ⅱ 肝疾患 138
1 肝硬変患者に対する栄養管理① 138
2 肝硬変患者に対する栄養管理② 141
Ⅲ 腎疾患 143
1 腎不全急性増悪患者に対する栄養管理 143
Ⅳ 糖尿病 147
1 意識障害を伴った糖尿病患者に対する栄養管理 147
2 脳梗塞を伴った糖尿病患者に対する栄養管理 151
Ⅴ 循環器疾患 154
1 心不全患者に対する栄養管理 154
2 不整脈患者に対する栄養管理 158
Ⅵ 周術期 163
1 壊死性筋膜炎(ガス壊疽)手術患者の術前・後の栄養管理 163
2 術後難治性皮膚腸瘻形成患者に対する栄養管理の実際 166
Ⅶ 熱傷 169
1 熱傷患者に対する栄養管理① 169
2 熱傷患者に対する栄養管理② 172
Ⅷ 小児 175
1 ヒルシュスプルング病類縁疾患患児に対する栄養管理 175
2 MMIHS(巨大膀胱・腸管蠕動不全)患児に対する栄養管理 178
資料
用語解説 181
索引 188