書籍詳細

院内ルールと医師のマナー

監修=日野原重明(日本医学教育学会名誉会長、聖路加国際病院理事長)

B6変型

210頁

ISBN978-4-86034-250-0

2000年04月発行

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表紙
サイズ
B6変形判 
209頁
定価本体
1,900円(税別)
院内ルールと医師のマナー
監修=日本医学教育学会名誉会長・聖路加国際病院理事長
日野原重明
要旨
   本書は医師のマナーそして病院内のルールを守ることについてのしつけ、倫理、習慣の書である。医学校を卒業してからの研修時代において医師としての、患 者や家族、またティーム医療のメンバー、上司へのマナーや院内ルールを守ることは、今日の日本ではとかくなおざりにされている。この方面の訓練は組織的に は行われていない。
これは医学生が、臨床医学に触れる当初から身につけなければならないマナーがあるが、それが最初から軽視または無視さえされているように思われる。
患者の病歴を取ったり、診察したりする前に患者や家族への対応のアートの取得の大切さはいかに医学が高度化されても、医師に必須とされるものである。
オスラー教授(1849~1919)は、「医学はサイエンスに基づくアート」であると述べたが、患者や家族へのタッチ、態度、会話がよく配慮され、心をこ めた(compassionate)ものでなければ、いかにサイエンスとしての医学をマスターしても、臨床家に必要な医のアート(医術)は体得されず、そ れなしには臨床能力(clinical competence)を身につけたとは言えない。
本書は、医学、医術の各方面において経験豊かな臨床家によって書かれた院内ルールと医師のマナーの本である。このマナーなしにはティーム医療の一員となることはできない。
以上の意味で、本書は若い医学生、研修医だけでなく、年配になった医師にも、反省の意味で一読に価する書と思い、これを出版した次第である。
(「監修のことば」より)
目次  
  第一部 提言・苦言 -わたしの一言-
若き医師に望むこと-しっかりした職業観、表現力、死生観の涵養を
  香川県立中央病院泌尿器科主任部長  朝日俊彦
自信がついたときこそ少し謙虚になってみよう
  国立病院東京医療センター内科医長  伊藤澄信
すぐれた診療はプロの原点としてのマナーの上に成立する
  聖路加国際病院副院長・看護部長  井部俊子
専門者としての自覚を持ち"凛"として生きよ
  大阪府立千里救命救急センター所長  太田宗夫
コミュニケーションに時間と労力を!
  日本歯科大学内科客員教授(元日本大学医学部内科教授)  岡安大仁
医師の基本的態度と病歴のとり方
  東京都済生会中央病院副院長  北原光夫
学生、研修医は教員、指導医を映す鏡
  東海大学教授・医学部長、東京大学名誉教授  黒川 清
医師は「医療の人間化」の旗振り役になるべきである
  東京大学名誉教授・国立小児病院名誉院長  小林 登
すてきな医師のすばらしいリーダーシップ
  国家公務員共済組合連合会東北公済病院元看護部長  齋田トキ子
若い臨床医に望む-理想の医師とは-
  財団法人竹田綜合病院理事長  竹田 秀
医学のサイエンス・アート・モラルを三位一体として兼ね備えた医師を目指せ
  茅ヶ崎駅前クリニック院長・茅ヶ崎徳州会総合病院名誉院長  塚本玲三
ウデのよい先輩に密着して技術を学びとることが大切
  浜松労災病院院長  戸部隆吉
情報開示に伴い守秘義務、カルテの記載がますます重要になる
  聖路加国際病院事務長  中村彰吾
患者さんは白衣に頭を下げているのだと心得よ
  聖路加国際病院内科医長  西崎 統
診療にあたっての原則と高齢期の患者への対応
  聖マリアンナ医科大学副理事長(前学長)  長谷川和夫
患者との信頼関係とチーム医療を重視してほしい
  北里大学病院看護部長  古庄冨美子
各自の自覚と院内の接遇教育に期待したい
  日本赤十字社医療センター院長  森岡恭彦
患者さん、スタッフからの信頼性と経営感覚を身につけてほしい
  社会福祉法人聖隷福祉事業団常務理事  山本敏博
黄金律と四つの提言
  日本赤十字社和歌山医療センター院長・京都大学名誉教授  吉田 修
  第二部 院内ルール&マナーのポイント
●はじめに-新人医師として
1.病院とは-病院の三つの"顔"/2.医師の地位と身分/3.保険診療の決まり/4.勤務先病院についてよく知る/5.就業規則・院内諸規定の確認
●医療人としての心構え
6.これからの医師の態度/7.患者本位の医療/8.開かれた医療/9.サービス業としての医療/10.研究活動と診療
●仕事の進め方
11.時間厳守/12.計画的行動/13.手順の重視/14.記録の重視/15.報告・連絡・相談/16.相談-わからないことは聞く/17.無駄をなくす/18.当直時の心得
●患者に接する態度
19. 受容的態度-まず話を聞く/20.あくまでも冷静に/21.公平の原則/22.プライバシーへの配慮/23.言葉づかいの注意/24.禁句あれこれ /25.お年寄りの患者には/26.異性の患者には/27.患者の家族には/28.やっかいな患者さん①わがままな人/29.やっかいな患者さん②攻撃的 な人/30.やっかいな患者さん③医師を誘惑する人/31.やっかいな患者さん④医師を利用しようとする人/32.苦情処理の原則
●職場のマナー
33.まずは挨拶/34.一に清潔、二に清潔/35.整理整頓/36.ルール破りはいけない/37.診療中の私語を慎む/38.公私のケジメ/39.喫煙・飲酒のマナー
●おわりに
40.自己管理の大切
  内容見本
提言・苦言-わたしの一言
香川県立中央病院泌尿器科主任部長 朝日 俊彦

若き医師に望むこと
-しっかりした職業観、表現力、死生観の涵養を-

 
 世の中の仕組みが変わり、社会のニーズが多様化する中で、医師に求められることも変化してきている。さらに、私たちが初めて経験する超高齢化社会も現実のものになろうとしている。そのような環境下で、これからの医師にこころしておいて欲しいことが三つある。
ひとつは、自分の職業に対する考え方である。医学部で六年間の授業を受けて、卒業すればすぐに実践で役立つ医師として活躍できるとは誰も考えていない。先 輩医師や看護スタッフなどの協力があって、少しずつ一人前として成長していく。その間にいただいた給料は、将来に対する投資のようなものであって、立派な 医師として自立することができるようになって、お返しをさせていただくことになる。研修医が「安い給料で働かされている」とこぼしている。ほとんど役に立 たず、むしろ迷惑をかけ、あれこれ指導していただきながら勉強させていただいて、その上給料までいただけることを喜ばなければならない。経済原理から言え ば、自分の働きがどれほどの経済効果をもたらしているのか。むしろ指導者の時間を奪っているということも考えられる。
同じような見地から、患者にいかに迷惑をかけているかも反省しなければならない。若い医師は、さまざまな過ちを犯しながら成長していることを何度も自分に 言い聞かせなければならない。例えば手術にしても、上達するまでには、何人もの患者さんに協力していただいている。そのことを忘れてはいけない。自分が立 派な医師になるために、文句も言わずに患者になりきってくださった過去の患者さんを思い出しながら、常に感謝の気持ちをもって診療することがとても大切で ある。医師にとって最も恐ろしい落とし穴は、高慢になることである。少し知識が増えたこと、技術が向上したことなどを自慢してはいけない。そこに到るまで に快く協力してくださった患者さんのことを思い出すようにしなければいけない。
次は、表現能力を高めることである。病状によっては、相手に真意を伝えることが困難であることは珍しくない。しかし、患者本人に理解していただけるような 努力を惜しんではいけない。私たちがよく勘違いするのは、一度説明して、その時に分かったような振る舞いをされたので、理解しているものと思い込むことで ある。医学の専門家であればいざ知らず、素人の方が、一度説明を聞いただけで分かるほうが不思議なくらいである。例えば、パソコンの操作方法を一度教えて もらっただけで、うまく操作できるだろうか。まず無理であろう。そうであるなら、何度も説明する意志を持たなければならない。さらに、相手から質問される ような雰囲気を持つことも必要になる。これは練習のたまもので、日頃から患者さんの言葉に耳を傾ける習慣を身につけることである。相手は素人であるので、 病気と関係ないと思われることも話すであろう。それを言下に否定してしまったのでは、良好なコミュニケーションを形成することは困難になる。
患者さんに自分の説明を理解していただくようにするためには、日常生活の中のさまざまな譬え話を利用することである(道路工事で車線が制限されているか ら、渋滞しているのと同じ現象である、など)。また、先輩が説明している上手な表現を盗むことは技術を教えていただくのと同様に大切である。さらに、文学 作品などの書物に親しむことも、表現能力を高めるためには必要である。自分が説明していることを、いかにして患者さんに理解していただき、納得して検査な り治療を受けていただけるかは、とても重要なことである。そこで気を付けるべき事柄は、自分の能力を偽らないことである。インフォームド・コンセントのな かで、自分や自分の属する病院の能力を正しく知っておくことも必要なことで、それを相手に忌憚なく伝えなければならない。自分の能力を過信することで、大 きな過ちを犯すことになる。常に謙虚な気持ちで患者さんに接することが求められる。
最後に、今日のような高齢社会では、死をどのように考えるかも大切なことになってくる。これからの医療は延命中心から、全人的ケアも視野に入れた方向へ進 むと思われる。老人の増加で、死が日常茶飯事として取り扱われるようになってくる。そのような時代にあって、自分の死生観を持つということが求められるよ うになる。いかに命を永らえさせるのかということと、いかに安らかな最後を迎えていただくのかということが、倫理観として問われるようになる。そこでは、 どうしても相手の価値観を受け入れることが必要になる。そのためには、生前から終末期の過ごし方についての充分な話し合いがなされなければならない。筆者 は患者さんがまだ元気なうちから、家族も交えて、どのような終末を迎えたいのか話し合うようにしている。死ぬことは自然現象であり、それと闘うという医療 を提供することばかりが、患者さんや家族の幸せにはならないことも少なからず経験している。穏やかで安らかな死を患者さん本人だけでなく、見守る家族にも 実感していただけるような関わりも大切である。それを現実のものにするために、死についての学びも深めていただきたいのである。