前版『ミクス薬学シリーズ⑧ 内分泌薬学』が刊行されてから10 年以上が経過した。「内分泌薬学」は,生理学あるいは内分泌疾患からの視点でのみ語られていたホルモンを,薬物利用といった視点から取り上げており,きわめて斬新な切り口の書物である。しかし,この10 年の間には分析技術のみならず,基礎科学が進歩し,数多くのホルモンの新たな生理作用や疾患との関連性が明らかになり,「内分泌薬学」では足りない部分がみられるようになった。そこで,前版の編集を務められた川島光太郎先生からの強い要望とともに,改訂版の作成を検討することになり,私が編集を任された。
私がまず意識したのは,2 つである。1 つ目としては,「内分泌薬学」の精神を受け継ぎ,ホルモンをその構造を含めた物質の面から取り上げ,薬学の本を作ることである。疾患を中心としたホルモンの本は医学関係で既に多く出版されており,臨床現場で働いておられる医師の執筆内容にはかなわないと考えた。そこで,構造を含めた化学の視点でホルモンを捉え,薬物への応用を踏まえた執筆をお願いすることで,薬学の本の作成を目指すことにした。実際著者には,構造をできるかぎり載せることや,その特徴を記載することをお願いした。
2 つ目としては,卒業後も使える本を目指した。つまり,現場で働く医療従事者が目を通しても,新たな発見がある内容とすることにこだわった。そのためには,ただ新しいことを記載すればよいというのではないと考えた。ホルモンの物性,薬物利用への意義など,ほかの書物には見当たらないような内容の記載を,薬学部で実際に教えている著者の先生方にお願いしたところ,薬学教育によって培われた感性で,各先生方はこの要望に応えてくださったと感じている。そして,薬学独特の本ができ上がったといえるのではないであろうか。
薬学部が6 年制となり7 年が過ぎようとしている。6 年制での国家試験も2 回目を迎え,新たな薬学教育は,なんとか軌道に乗りつつある。問題解決能力を備えた薬剤師の養成を目指し,大学教育は行われている。今行っている教育が実を結ぶまでには,まだまだ年月はかかるであろうが,薬学を学ぶ者として,ほかの医療従事者では培えない感性をもつことを意識し続けなければならないと感じる。それは,“化学の眼で医療を見る” ことではないであろうか。本書がその一助となるのであれば,幸いである。
平成25 年3 月
厚味 厳一
(本書” 編集にあたって”より抜粋)